この記事では自賠責保険について、かいつまんで解説します。
仕事上、自賠責保険を調べる機会がありましたので、せっかくだからまとめておきます。
目次
自賠責保険の概要
自賠責保険は、「自動車損害賠償保障法によって公道を走るすべての車に加入が義務付けられている保険」です。自賠責保険をつけずに車を走らせると違法になります。
自賠責保険では、運転中に人をはねてしまった場合などの対人事故を想定し、その際に運転手が負う対人賠償責任を補償します。
補償とは、損失の填補をすることを言う。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ちなみに・・・
保障:ある状態がそこなわれることのないように、保護し守ること。
保証:1 間違いがない、大丈夫であると認め、責任をもつこと。2 債務者が債務を履行しない場合に、代わって債権者に債務を履行する義務を負うこと。
出典:weblio辞書
対人賠償責任とは「相手にケガをさせた・死亡させた・後遺障害を与えた」ことで加害者が負う被害者への賠償義務のことです。
自賠責保険で補償するはあくまで対人賠償のみですので、「相手の車を壊した」とか「ぶつかって建物を壊した」など、加害者が負う対物賠償責任は補償されません。
自賠責保険は加害者(運転者)の対人賠償責任を補償するものですが、本来の目的は交通事故被害者の救済です。
補償内容
被害者1名あたりの補償内容と支払限度額
被害者がケガをした時
- 支払限度額:120万円
- 項 目:治療費/休業補償/慰謝料
被害者が死亡した時
- 支払限度額:3,000万円
- 項 目:逸失利益/治療費/慰謝料/葬儀費用
被害者に後遺障害が残った時
- 支払限度額:4,000万円
- 項 目:逸失利益/治療費
逸失利益・慰謝料・休業補償の考え方
逸失利益と慰謝料と休業補償の違いは何でしょうか。
- 逸失利益・・・将来得られるはずだった収入
- 慰謝料 ・・・精神的なダメージに対する補償
- 休業補償・・・ケガによって失った収入に対する補償
逸失利益
性質 | 将来得られるはずだった収入に対する補償 |
種類 | ・後遺障害逸失利益 ・死亡逸失利益 |
請求できる条件 | ・後遺障害逸失利益-後遺障害認定が必要 ・死亡逸失利益-収入がなくても請求可 |
注意点 | 被害者の職業や年齢、後遺障害の等級によって金額が変動 |
慰謝料
性質 | 事故による精神的なダメージに対する補償 |
種類 | ・入通院慰謝料 ・後遺障害慰謝料 ・死亡慰謝料 |
請求できる条件 | ・入通院慰謝料-交通事故と症状の因果関係を示すことが必要 ・後遺障害慰謝料-後遺障害認定が必要 ・死亡慰謝料-法定相続人による請求 |
注意点 | ・慰謝料の算定基準によって、金額が大きく違ってくる ・被害者の死亡もしくは重度後遺障害時は示談交渉が長引きやすい |
休業補償
性質 | ケガの治療によって失った収入に対する補償 |
種類 | なし |
請求できる条件 | ・労働により収入を得ている(家事も労働と見なされる) ・ケガによって仕事ができなくなった |
注意点 | 医師の休業認定が必要 |
任意自動車保険は自賠責保険の上乗せ
任意自動車保険だと自賠責保険で補償するところは「免責」になる
加入が義務付けられている自賠責保険に対して、任意加入(加入してもしなくてもよい)の自動車保険があります。これを任意保険自動車といい、各保険会社から販売されています。
任意自動車保険でも対人賠償責任を補償しますが、この対人賠償補償は、自賠責保険の上乗せになります。つまり自賠責で補償する部分は任意保険では補償しません。これを免責といいます。
しかし任意保険に加入していると、実際の事故時には保険会社が自賠部分も含めてまとめて対応します。
これは、実質的に保険会社があなたの代わりに自賠責保険の手続きをしてくれているのです。
任意保険では保険を使うと次の契約から保険料が高くなりますが、自賠責保険の範囲で保険金の支払いが収まれば、任意保険を使ったことにならないために保険料は高くなりません。
公道を走らない車でも対人賠償責任に備えることが大事
工場の構内専用車(フォークリフト)など公道を走らない車はでも対人賠償事故は起こります。なので、対人賠償リスクに次のいずれかで備えます。
・自賠責保険に加入
・任意自動車保険に加入して「対人下積み担保特約」を付帯
保険料
自賠責保険の保険料は、交通事故発生や保険金支払額の状況などを踏まえて「損害保険料率算出機構」が決めます。
この保険料は「保険料収入」と「保険金支出」のバランスをとるために値上げ、値下げを繰り返しながら調整されます。
出典:日本損害保険協会
加害者と被害者は誰になる?
加害者:運転者または車の所有者が加害者になります
被害者:車にぶつけられた人が被害者になります
車の同乗者は、たとえ車に乗っている時に事故でケガをしても自賠責保険での被害者にはなりません。
加害者から自賠責で補償してもらえない!どうしらたいいの?
被害者請求を利用する
自賠責保険は「被害者救済」を目的としています。そのため、加害者が自賠責保険の請求手続きをとらない場合には被害者が請求手続きできます。これを被害者請求といいます。
被害者請求も利用できなければ政府保障事業(自動車損害賠償保障事業)を利用する
被害者請求でも自賠責保険を利用できない場合があります。
それは、加害者を特定できないひき逃げ事故に遭った場合や、そもそも加害者が自賠責保険に加入していなかった場合などです。
そのような場合には政府保障事業を利用します。政府保障事業は自賠責保険を補完する国の事業であり、被害者は交通事故で自賠責保険金をもらえない場合には、ここに請求すれば自賠相当分を支払ってもらえます(各損害保険会社はここの窓口も兼ねています)。
政府は損害賠償金を立替払いしているに過ぎないため、加害者がわかれば政府は立替払いした金額を加害者に請求します。
まとめ
最後にポイントをまとめておきます。
- 自賠責保険は公道を走る全ての車に加入が義務付けられている。
- 自賠責保険で補償するのは、対人賠償のみ。対物賠償は補償されない。
- 任意自動車保険は自賠責保険の上乗せ。
- 保険料は制度全体で定期的に値上げ・値下げをしながら調整される。
- 被害者は自賠責保険で補償されなければ、政府保障事業で救済してもらえる。
本日の記事は以上です。